これまで紹介したように株式や為替といった金融商品は、値上がりと値下がりという二つの事象に区別して二項分布とし、それを正規分布に近似し、正規分布として考えることができます。
ですが、実際に投資をすると小さく勝って、バブルなどの暴落で大損して退場というパターンが多々見られます。なので、金融商品の価格変動を単純に、値動きを値上がりと値下がりという二つの結果だけで考えるのは、現実においてあまり意味がありません。
つまり、金融モデルでノーベル経済学賞を受賞した、ブラック=ショールズモデルも、正規分布に基づいた確率モデルにすぎないので、金融商品の価格変動のうちで捉えることができているのは、95%の小さな揺らぎの部分だけで、我々の投資のリターンに大きく関わってくる肝心の5%の部分については、全く把握していないので、当然現実の世界に当てはめて考えた場合、そこには必ず誤差が発生します。
株式や為替の世界では、金融商品の価格変動の95%は正規分布で説明できる変動に収まるものの、残りの5%の大きなの変動が、投資家に大きな損失を与えてしまい一発退場につながります。
また、サブプライムショック、リーマンショック、東日本大震災といった確率的には1%以下で通常まず起こらないと言われている桁違いの変動が、マーケットの世界では数年ごとに1回というなかなかの頻度で発生します。これが統計学を使っても金融市場で思ったように勝てないことの大きな原因であると私は考えています。
上で述べたように金融商品の価格変動を正規分布で表すことの欠点は、この5%の部分にあります。なのになぜ正規分布を仮定したモデルが使われているのかいうと、数学的に扱いやすいからです。
これまで述べたように、もし金融市場が正規分布ではなく、べき分布に従うのであれば、正規分布をもとに設計されたこれまでの金融工学の理論でリスク・リターン分析をすることは、そこまで意味がないということになってしまいます。
ですが、現在の金融市場は正規分布を前提とした、金融工学によって作られた機関のアルゴリズムが市場の大半を占めているため、そういう点から考えれば、標準偏差の理論をチャートに当てはめたボリンジャーバンドは一定の成果をあげるかもしれません。
じゃあべき分布を使えばいいじゃないかという話になるのですが、現在の金融工学の理論は金融市場は正規分布に基づいて作られたものであるので、そうすると、金融工学のこれまでの分散投資やポートフォリオ理論などの100年近くかけて築いてきた理論を全てひっくり返すことにも繋がりかねないのです。これを全部べき分布を前提にしたものに作り直すのは、想像もつかないような大変な作業になるでしょう。
加えて、べき分布は分散や標準偏差の概念が意味をなさないため、基本的統計量が全く意味をなさなくなり、計算が正規分布に比べて遥かに困難になります。これが、皆がうすうす市場価格の変動はべき分布だろうなと、思いつつ正規分布を捨てられない理由でもあるのです。
そして、これが確率に基づいた投資が、リスク管理に過ぎず、リターンにおいて絶大的な効果を発揮できない原因で、テクニカル分析は駄目だと言われる一因なのです。指標や意思決定の前提としてる条件が少し間違っているわけですからそりゃそうです。なので、私は「株式投資」はファンダメンタルに基づいた中長期が最善であると思います。
もちろん確率に基づいた考え方はリスク管理において重要であるので、金融工学が全く役に立たないというわけではあります。攻めのファンダメンタル・守りの確率論といった風に私は捉えています。
まあ正規分布の欠点はバブルに対応できない点でそこ以外ではそこそこ成果を挙げているので、最近はボラティリティーを駆使してバブルを予測する研究が進んでいるらしく、この辺りで結果が出てくれば、正規分布でみる金融工学も現実にもうちょいフィットしてくるかもしれません。